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Musashi文庫第3弾「ライオンのおやつ」(小川糸)

2020/03/28

Musashi文庫とは……?

 今年で2年目。

  読書の楽しさを知って欲しい、そのようなところから企画が始まりました。

 相田・櫻田・長谷川の3名で「本屋大賞候補作」の中から、それぞれ2冊ずつピックアップ。そして、読んだ人が感想文を公開します。

 そして、三人ともに読み終わったら、Musashi生にも貸し出しします。

 ※入試に出るかどうかはわかりません。 

今回は、櫻田が書かせていただきました。ライオンのおやつ(小川 糸)です。それでは、はりきってどうぞ。


https://www.poplar.co.jp/pr/oyatsu/


Musashi文庫 2020第3弾

ライオンのおやつ 小川 糸

感想文:櫻田 征久

生きているうちに、もう一度食べてみたい「おやつ」をリクエストできる。日曜日におやつの間に集まると、抽選により選ばれたおやつが忠実に再現され、「思い出」を手紙で添えて、提供される。不思議で、あたたかい、ホスピスを舞台にした話です。

 

ホスピスの物語──私は、この本を読み切れるかどうか非常に不安でした。ホスピスとは死期の近い患者を看護する施設のこと。そのくらいの知識しかありません。

本を開く前から「死」と向き合うことに対する恐怖があり、扉を開く手も鉛のよう重く、やっと開いた冒頭で次の表現に出会いました。

 

“手紙にうんと顔を近づけて、文字の匂いを吸い上げた”

 

その瞬間──小川糸さんの色彩豊かで躍動感のある描写に一気に引き込まれました。この本が好きだ。そう思って、引き込まれたからこそ、1日数ページずつ、じっくり読もう。そう決めて、日々の食事をするように習慣的に読み進めて行きました。

 

「生」はあたたかく、「死」はつめたい。そんな漠然とした先入観が頭の片隅にありつつも、この本を読み進めます。徐々に、自分の人生と重ねながら読むようになって行きます……しかし、不思議と暗い気持ちにはなりません。

物語では、ライオンの家のあたたかい日常が小川糸さんの言葉で鮮やかに描かれます。自分はそれを本の外から見守っている気分です。そして、徐々に、「自分もこの家に住んでみたいな。」と感じるようになりました。感情移入しすぎるのは、私の悪癖かもしれません。

ふと気付いたら、自分と主人公の雫の気持ちが重なっていました。「この生活に“終わり”が来て欲しくない。」と思うようになったのです。

 

 そこから、数日どころか数週間、この本を開くのに躊躇していました。扉を開いたら、物語が進んでしまう、今までの生活が変わってしまう、大切な人に会えなくなる……雫の気持ちが離れず、怖くて本を開けません。

物語でさえこのように恐怖を覚えるのだから、自身がそのような状況になったとき耐えられるのだろうか。そのようなことを考えながら、再び、扉を開きました。そして、そこからは100ページ近く、最期の1ページまで止まることなく読み進みました。

 「人の気持ちを理解する」なんて簡単なことじゃない。それどころか、「自分の気持ちを理解する」ことさえだって出来ない。自分の中に併存する何かと向き合う作品となりました。

死の淵に立たされた時、美しく佇み続けることなんて出来っこない。それでも、取り返せないことなんてない。これから、1日、1日、を大切に生きて行こう。

一言で「ぬくもり」が感じられる作品です。この作品に出会え、「死」の追体験を通じて、「生」きている実感を得ることが出来ました。(終)